Our Story's Diary

こころを動かされたものと、動いたこころのこと

『ボルケニオンと機巧のマギアナ』は例年の #ポケモン映画 とどう違うのか。そして、ポケモンはディズニーを目指すのか

 『ボルケニオンと機巧のマギアナ』の感想記事。つい数日前にも書きました。

 【感想】『ボルケニオンと機巧のマギアナ』は、ここ数年のポケモン映画への不満を解消した傑作

 しかし、この内容はネタバレがないように全力で配慮したもの。この程度ではまだまだ書き足りない。

 というわけで、少しだけ(未視聴でも問題ないラインを探りつつ)ネタバレを交えながら、もう少し深くこの映画の魅力を掘り下げていきたい。

 本当は中身についてネタバレ全開の考察記事も上げたいのだけど、そっちはそっちで近いうちに別の記事で……。

 

「今年のポケモンは、本当に違う」

 そんな評判を去年も聞いた。一昨年も聞いた。っていうか毎年聞いた。

 特に、去年の『フーパ』は、『エンテイ』以降十数年ぶりに脚本家が変わったので、今年は違う、今年は面白い、そんな話が結構流れていたと思う。

 なので、私は期待して観に行き、そして、つまらなかった

 ここで「まあまあ面白かった」ということも可能だけど、それだとただの「ポケモン映画はいいぞおじさん」になってしまうのではっきりさせよう、『フーパ』はつまらなかった。伝説のポケモン大集合、というコピーありきのコンセプト。ラティ兄妹の再登場のようなファンサービスこそ旺盛だったけど、肝心のストーリーは全然大したことなかった。

 これがポケモン映画の限界。大人が観ると「まあまあ面白かった」というところに収まるような、子ども向けアニメの枠を超えられないのかという失望。

 なので今年も正直全然期待してなかったし、どうせあてにならないので前評判すら全く調べずに突っ込んだらめっちゃ面白かったので、こうして掌を返して手の甲側でキーボードを叩いているのだけど、

 観てない人からすれば「今年は違うってあと何回言うんだよ」と思うのも致し方ない。

 では、何がいつもと違うのか。それを見ていく。

 

ピンチになるのがピカチュウではない

 一昨年公開された映画『破壊の繭とディアンシー』。XY映画第1作。

 さすがに2年前の映画なので多少のネタバレは許してほしいのだけど、

 この映画のラストで、ピカチュウはイベルタルの力によって石にされてしまう。

 大切な仲間が命を奪われ、涙を流すサトシたち。

 そこへ、再生をつかさどるゼルネアスが表れ、ピカチュウは生き返った。

 さあ、この夏史上最大の感動!泣こう!

 ……このラストシーンを観て、ポケモン映画のメインターゲットたる小学生がどういう感覚を抱くかはわからない。

 わからないが、大学生の私の感覚としては、

 毎週木曜に元気に冒険しているレギュラーメンバーの生死をストーリーの軸に持ってこられても困る

 こういう見方をすると身も蓋もないけれど、それにしたってさすがに茶番。生き残るに決まってるのだから。

 同じポケモン映画でも、『ミュウと波導の勇者ルカリオ』なんかの展開は、どっちに転ぶか最後までわからなくて良かったし、前作『フーパ』が個人的に『ディアンシー』よりは楽しめた理由もそのあたり。

 その点、今作の『ボルケニオン』。ボルケニオンとマギアナの安否がストーリーの主軸になっているので、最後まで展開が読めない。これだけでもかなり嬉しい。

 

サトシの成長は望めない

 ポケモンのテレビアニメシリーズ中、最高傑作とされることの多い『ダイヤモンド&パール』。

 あのシリーズは、サトシとヒカリのダブル主人公だった。

 シリーズ開始前、サトシが続投するかどうかが前週まで伏せられる(AG編最終回でサトシがシンオウ行きの船に乗ることで初めてわかる)、という大胆な宣伝手法が印象に残っている。

 どうしてダブル主人公が必要だったのか。

 これもまた、身も蓋もない話になってしまうが、サトシというキャラクター、初代~金銀までならいざ知らず、もうとっくにキャラクターとして完成されている。

 サトシを物語の主人公に据えると、「事件が起きました、マサラ人のサトシが解決しました、めでたしめでたし」という単純な物語になってしまう。ミステリーやアクション映画やコメディなどであれば、それでもいいけれど。

 そこでDP編では、ヒカリというキャラクターをメインにすることで、サトシのバトル道とヒカリの成長物語のいいとこどりを行った。

 続くBW編では、サトシの経験値をリセットして成長物語にしようとした結果、旧来のファンの怒りを買いまくり、シーズン2で軌道修正をする羽目になった。

 XY編は何とかバランスを取ろうとしているっぽいけどちゃんと観てません。ごめんなさい。

 まあとにかく何が言いたいかというと、サトシは主人公としてはあまりにも成長しきっている。CP2000くらい。

 

 『ボルケニオン』は、サトシとボルケニオンのダブル主人公、というよりボルケニオンが主人公と言ってもいい。

 この2人の対比を掘り下げるとネタバレになるので詳しくは割愛するけれど、

 年齢・強さ・存在感などで一見するとボルケニオンの方が上の立場に来るところを、実はサトシの方が精神的に大人びている部分があって、ボルケニオンを諫めたりする。

 このデコボコな関係、お互いを補完しあう2人組というのがバディものとして理想的。

 「場慣れしている前主人公+新米主人公のダブルキャスト」という構図は『ナルニア国物語』から『相棒』まで古今東西で使われてきたメソッドであるけど、サトシという最強主人公を外せないポケモンアニメにおいてはこのダブル主人公制が最適解だということを改めて示した。

 

ロケット団がいる意味

 前回の記事でも触れたことだけど、ポケモンアニメはAG編で、原作ゲーム(ルビー・サファイア)に出てこないロケット団をアニメオリジナルで続投させる決定を下してから、(ストーリー上重要な回であればあるほど)その扱いに困ることになった。ある意味ではサトシ以上に扱いあぐねていた。

 その1つの解がBWの路線変更だったけど、残念ながら炎上した。

 この問題が映画では特に顕著で、「映画オリジナルの悪役」が存在するのに、ロケット団は何をしに出てくるのか。

 第三勢力として騒ぎに乗じてピカチュウを狙うにしろ幻のポケモンを狙うにしろ、うまくいくわけがないし、本筋の対決とは関係ないので、「中盤あたりで挿入される全く関係ないイベント」になってしまう。

 全く関係ないイベントが挿入されることは物語においてノイズだ。

 いや、そう思わない人もいると思うが、少なくとも思春期に『輪るピングドラム』というドラッグを摂取してしまった私としては、やっぱり物語は必然性と必要性だけで構築されてほしい。全てのオブジェクトに意味があってほしい。あらゆる映画はズートピアであってほしい。

 

 この問題について、今回の映画の解決策は非常にスマートだ。

 「ロケット団を敵陣営に協力させる」。今までのポケモン映画における「悪役の手下」をロケット団に兼ねさせることにしたのだ。(まあ悪役の手下も別にいるのだけど)

 これによって、定番であるサトシvsロケット団の対決が物語に必要なステップになったし、同時にロケット団が今回の悪役の技術である「ネオ神秘科学」の力を借りることで、「いつもと違うロケット団」になった。

 「いつもの(テレビシリーズのままの戦力の)ロケット団」がサトシに勝てないというのはもう自明。突然ニャースがタイマンでピカチュウに勝てるようになるわけがない。

 でも、ネオ神秘科学の力を借りたロケット団なら、サトシたちを追い詰める展開もあり得るかもしれない?

 そう思わせた時点で成功だ。今作のロケット団は、物語の重要なパーツとしてきちんと存在している。

 あと、今作はニャースがかなり重要な役割を演じているのだけど、その話も掘り下げるとネタバレなので割愛。

 

伏線・反復

 お前は伏線さえ張ってあれば満足なのか? と言われると「はい……ごめんなさい……」となるのだけど、

 まあとにかく今作は「本当にポケモン映画?」っていうくらい伏線や反復が詰め込んであって、作品が綺麗にまとまっていた。

 前回の記事で書いたことと同じ内容になってしまうのでもう少し踏み込んで書くと、

 今作は「相手を信用できるかどうか」「異なる集団が共生していくことはできるのか」みたいなところが一貫してテーマになっていて、

 「相手が本当のことを言っているかどうかわからない」というエピソードが大小様々に散りばめられている。

 そこに対してラストシーンの意味がちゃんとある。

 1つ1つのエピソードを拾っていくほど、ラストシーンは必然的で、この映画が明確に1つのテーマを描くために作られていることがはっきりする。

 しかも、ラストシーン、基本的に割と説明過剰なポケモン映画において、サトシの台詞がすごくシンプル。

 シンプルだからこそ光る。素晴らしいです。

 

ポケモン映画の路線変更の理由

 で、ここからが本題。いや、ここまでも本題なのだけど。

 ポケモン映画はどうして今年ここまで化けたのか?

 もしかしたら大した理由なんてなくて、脚本家がアナ雪観て感銘を受けてちょっとそういう路線に舵を切ってみたくなっただけかもしれないけど、

 私はこの物語の必然性を信じるのだから、当然、この物語を生み出した現実にだって必然性を信じる。

 考えられる路線変更の理由は何か。

 前年の『フーパ』が興行収入最低記録を更新したことで、スタッフに危機感が出てきたというのは、それなりに尤もらしい。

 けれど、それに気づくのはもう何年か早くても良かった気がする。

 もう1つ要因として挙げるとするなら、

 任天堂キャラクターの映画事業進出に伴って、任天堂グループの映画戦略が見直されることになったのではないだろうか?

 

 ポケモンは一応任天堂とは別会社になっているが、『スマブラ』や『amiibo』『バッジとれ~るセンター』などを見る限り、キャラクターとしては任天堂IPの1つとして扱うはずだし、

 少なくとも世間では任天堂と株ポケの区別が全くついていないことがPokémon GO現象で判明してしまった。

 現時点でポケモンのアニメ・映画は任天堂全体の事業戦略からは何となく切り離されているけれど、

 今後マリオやゼルダやスプラトゥーンやF-ZEROの映画が順次作られていくとすれば、ポケモン映画は「任天堂ブランド映画の1つ」ということになる。

 その時に、任天堂映画全体が「ポケモンのような低年齢層向けの映画」という目で見られることを避けたいのではないか。

 任天堂としては、おそらく『ゼルダの伝説』などの作品を使って、「子どもから大人まで楽しめる映画」を作ろうとするはず。

 そもそも、原作ゲームではポケモンもゼルダもマリオ(RPG系)も、それなりに重たい話が展開されているのだから。

 

任天堂はディズニーの夢を見るか

 今作の『ポケモン映画』は、「任天堂映画がこの水準で作られるなら期待できる」と思わせるに足るクオリティだ。

 裏を返せば、去年までのポケモン映画の印象だと、「このレベルのストーリーでゼルダ映画化ならやらない方がマシでは」と思っていた。というか、任天堂映画進出のニュースを見た時に、それが一番の不安だった。

 しかし、今年のポケモン映画は、頑張った。

 先が読める展開を避け、お約束をなるべく減らし、伏線と反復を取り入れ、テーマ性までぎゅっと詰め込んだ。それこそ、短編を久々にカットしないと収められないくらいに。

 「大人も楽しめる映画」「ポケモンファン(アニポケファン)以外にも受け入れられる映画」を諦めない、という姿勢を見せた。

 見せた、というだけで、文句なしの傑作かと言われると、残念ながらその域には達していない。

 例えば、サトシゲッコウガやジガルデパーフェクトフォルムについて映画内で一切説明がない、アゾット王国の一般国民との交流がなく世界観の掘り下げが若干足りていない、など、不満点もそれなりにある。

 このあたりの「アニポケのお約束への依存」とどう折り合いをつけるか、というのは、何だかんだ言っても既存のアニポケファンも大勢いるだけに、難しい問題ではあると思う。

 ただ、そういった欠点を差し引いても、今年の『ボルケニオン』によってポケモン映画は明らかに新たなステージに到達した。

 そして、『ポケとる』『ポケモンコマスター』『Pokémon GO』が、「任天堂IPがスマホゲームというプラットフォームでも活躍できる可能性」を先行して示したように、

 『ボルケニオン』と、ここからの1~2年で公開されるポケモン映画は、任天堂IP映画が子ども向けの枠を越えられる可能性を示すという使命を負わされている。

 今年の興行収入は、おそらく何もなければ『フーパ』をさらに下回るだろうけど、これは別にフーパやボルケニオンの映画の評価の問題だけではなくて、

 入場者プレゼントを受け取れる新作が『XY』『ORAS』と、発売が1年以上前のゲームで、プレイヤーの熱量が低いのもあると思う。ポケモントレーナーは今みんなスマホしか持っていないのだから。

 つまり、来年夏の『サン・ムーン』連動映画は、ほぼ間違いなく盛り返す。DPもBWも映画第1作では必ず前年超えを達成している。

 だからこそ、来年の映画が重要なのだ。もし来年、『ボルケニオン』を越えるような作品を持ってこれれば、ポケモン映画ブランドが復活するきっかけになるかもしれない。

 

 ディズニー映画は、2000年代に低迷期に入り、ピクサーなどに後れを取っていた。

 ピクサーを買収してジョン・ラセターをディズニーアニメのトップに招いたことで、

 2010年代には『シュガー・ラッシュ』『塔の上のラプンツェル』といった良作を次々に送り出し、

 『アナと雪の女王』では世界的な大ヒットを記録。続く『ベイマックス』『ズートピア』のヒットによって、ディズニー映画というブランドは紛れもなく完全復活した。

 低迷期の中に突然『アナ雪』がポンと突然変異的に生まれたわけじゃない。

 ディズニースタッフが、少しずつ良い手ごたえを得た先に生まれたものだ。

 ポケモン映画だって、一朝一夕で名作が生まれるわけがない。

 しかし、『ボルケニオン』路線を継承していけば、近いうちに名作が生まれるかもしれない。

 

 でも、そのためには「ボルケニオン路線が正解だ」という手ごたえをスタッフが得てくれないと困るので、皆さんぜひ劇場に観に行ってください、というお話。

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