映画・音楽・小説の感想

ヒトリエワンマン『DEEP/SEEK』ファイナルを観て、改めて考えたこと

 行ってきました。ヒトリエライブ。

 2015年1月の『WONDER and WANDER』以来なのでだいたい1年3ヶ月ぶり。

 当日は大学があったので授業終わってから会場に向かい、中に着てきたヒトリエTに着替えてライブに臨みました。

 いろいろなことを考えた夜でした。これからいろいろなことを書いていきます。

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 何から書いていいのかわかりませんが、まず、セットリストをTwitterに上げてくださっている方がいたので引用させていただきます。

 セットリストの全体的な印象は、DEEPER全曲やることは前提として、それ以外のところでしっかりバランス取ってるなー。と。

 ルームシックやnon-fiction e.p.からも持ってきつつ、イマジナリーやW&Wの曲も適度に混ざってて、全アルバムから1曲以上入ってる贅沢な構成。

 でも欲を言えば『劇場街』『深夜0時』聴きたかった。モノクロノ発売時のライブに行けなかったのやっぱりちょっと悔しい……。

 1曲目の『GO BACK TO VENUSFORT』は、DEEPERの中で一番好きな曲。たぶん1曲目だろうなとは思っていましたが、聴けて満足。

 で、そこから3曲目までがDEEPER収録だったので、4曲目『アンチテーゼ・ジャンクガール』でいきなりイマジナリーまで戻ってくれてテンション上がりました。大好きです。

 

 wowakaさんの隣にキーボード置いてあったの早い段階で気づいたし、米津さんライブでのメトロノームという前例も観てたので、たぶん弾くんだろうなー、キーボードの前に立ったら『フユノ』だろうなー、と思ったらやっぱりでした。

 フユノは凄く綺麗な曲だし、ピアノ弾いてくれるのは良かったんですけど、やっぱりwowakaさんが本職ピアノじゃないこともあって、CD版から相当簡単にアレンジされてましたね。というか歌ってる最中はほぼメロディーそのまま弾いてた。

 まぁでもこれもライブの醍醐味。最近米津さんの曲をピアノでよく(一人で)弾いてるんですけど、弾きながら歌うことの難しさを実感しているので、特に文句はないです。ギター・ベース・ドラムというバンドスタイルに固執しないことを見られたのが良かったです。

 

 途中、wowakaさんの長めのMCを挟んで『カラノワレモノ』。やっぱりこの曲はいいな。って思いました。

 アンハッピーリフレインから時間を空けて、初めて行ったライブでCDをwowakaさんから直接渡してもらって、CDにサインまで書いてもらった「hitorie-demo」で死ぬほど聴き込んだ、私個人にとっても思い入れの強い曲。久々に生で聴いて改めて良さを実感しました。

 

 そして、やはり特筆すべきはアンコールの『プリズムキューブ』。wowakaさんがその曲名を口にした瞬間の驚きは尋常じゃなくて、素で声が出てしまいました。

 かなり昔のライブではやってくれていましたが、その頃よりもボカロ寄り。調もアレンジも原曲に近づけていました。

 プリズムキューブは大好きだけど、正直言えばここ最近は音源でもほとんど聴いていなくて、それもあって半端ない懐かしさと、嬉しさ。

 そのあとに続いた新曲も、かなり好み。久々にテンポが速めで、歌詞もちゃんと聴き取れたのは一部ですが、美しくて抽象的な言葉を持ってきているような印象。

 メジャーデビュー後のアルバム、個人的な印象として、イマジナリー(大好き)⇒WaW(普通)⇒モノクロノ(大好き)⇒DEEPER(普通) って感じなので、次はまた揺り戻しでwowaka感の強いアルバムが来てくれるんじゃないか、という期待をさらに強めてくれるような曲調でした。

 

 私は結構初期(hitori-escapeの頃)からライブ行ってるわけですが、最初の方、特にメジャーデビュー以前って、それまでにある曲全部やってくれたし、曲が足りないからボカロ曲を引っ張ってきてたりしていて。

 最初に行ったのがそういうライブだったから、私の中のワンマンライブはそういうイメージで、『マネキン』『WONDER』と、だんだん曲のレパートリーが増えていくに従って、

 「ああ、今日はあの曲やってくれないのか」「この曲もないのか」っていう、ネガティブな印象がつきまとってしまっていたんですよね。

 それが、今回、ここまで曲数が増えてくると、最早やる曲の方が少ないし、たくさん飛ばされる曲があることも覚悟できているので、だからこそ、「あ、この曲やってくれた!」というポジティブな印象を持てたのが良かったです。

 

 だから、ライブからしばらく距離を置いていてよかった、とも思っていて、最近のヒトリエにとって何が定番曲なのかとか、全然知らないので、「inaikaraやるのか!」とか、いろいろ驚きました、テンション上がりました。

 マネキンインザパークのあたりからヒトリエのライブに対してある種のマンネリ感があったんですが、それは私の方で解決できる問題だったんだなと思いました。

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 私にとって1年半ぶりのヒトリエワンマン、正直言って、私はこのライブがそんなに楽しみではありませんでした。

 『マネキンインザパーク』『WONDER and WANDER』と2連続で期待外れの印象を受け、自分はライブを楽しめない人間なんだと思ったし、

 『シャッタードール』『ワンミーツハー』『DEEPER』もあんまり好きになれなくて、ヒトリエに対する熱もすっかり冷めつつあり、

 ちょうど2ヶ月前に「「DEEPER」は悪くないけど、最近のヒトリエはなんか違うと思う」という記事を書いたことで、最近のヒトリエに対する違和感、心が離れていく感覚が、形になって認識できるようになった。

 なので、本当はワンマンに行くかどうかも迷っていて、超最速先行と最速先行をスルーして、先行予約でようやく買う決心をしました。

 

 私は何かが始まる前にあれこれ考えすぎてしまって、予想しすぎて、期待しすぎてしまって、結果的にその勝手に設けたハードルを超えてくれなくてガッカリする経験を何度もしていて、

 それがマネキンだったり、WaW(アルバム・ライブの両方)だったり、DEEPERだったり、ヒトリエ以外で言えば、アイマスのライブだったり、ろこどるのライブだったり、スマブラforとかもそうだったのですが、

 一方で、米津さんの今年2月のライブや、昨年5月のSplatoonみたいに、時々、そのハードルさえも軽々と超えていってくれる、そんな突き抜けた興奮を得られることがあって、

 きっと私はそういう瞬間を期待して音楽を聴いたりライブに行ったりゲームをしたり、しているのだけど、

 ヒトリエのライブが、昔の私にとってそうであったように、もう一度、我を忘れて楽しめるような興奮と刺激を与えてくれるんじゃないか、という、一縷の望みを、捨てられなかった。

 もし、このライブに行って、楽しめなかったら、自分はヒトリエファンでさえいられなくなるんじゃないか。ヒトリエに対する悪印象の方が強くなってしまうんじゃないか。

 そんな怖さがありながらも、

 それでも、ヒトリエをもう一度信じてみたいと思ったから、ワンマンに行くことにして。

 行ってよかったと思えたし、そう思えてよかったと感じてました。

 wowakaさんを、ヒトリエを信じて、ライブにもう一度足を運んでよかった。ライブが終わった後に、心の底から、そう思える自分がいてよかった。

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 wowakaさんがDEEPER発売直前にしたツイート。

 これを受けて、私はこんな記事を書きました。

「DEEPER」は悪くないけど、最近のヒトリエはなんか違うと思う

最近のヒトリエはなんか違う、の話の補足とかお礼とか

 そして、この2つ目の記事で、こんなことを書きました。省略できないので、ちょっと長くなります。ごめんなさい。

 2014年末の『WONDER and WONDER』以降のヒトリエのインタビューやディスクレビュー、ライブレポートなどの記事を見ると、必ずといっていいほど

 「wowaka/ヒトリエは肉体性を獲得し、地に足の着いたバンドに進化した

 というような書き方をされていました。

 その内容そのものは正確だと思うのですが、

 本当にそれだけがバンドの、アーティストの、正しい進化の方向性なのか。変わっていくヒトリエの方向性は、誰が見ても素晴らしいものなのか。

 私は、とてもそうは思えず、しかし、明確にそれを言葉にできずにもやもやしていて、

 同時に、その視点からヒトリエを見た時の違和感を指摘する意見が、WaW以降、インターネットのどこにも落ちていないし、いつになっても出てこないことに、もどかしさを超えた、息苦しさと、ある種の恐怖がありました。

 大手メディアだけでなく、2chでもTwitterでもYouTubeでもニコニコでもAmazonレビューでも、絶賛の嵐。今のヒトリエを観て聴いた全員が、それを強く肯定しているように見える。

 にもかかわらず、私はそれを肯定できていない。

 自分と同じ感性だと思っていたアーティストとそのファン、その全てに対して、私一人だけが共感できなくなってしまった。

 つい2年前までは私は単なる熱狂的ヒトリエファンとして、ヒトリエの一挙手一投足に歓喜して、興奮していたのに、いつの間にかその熱狂の渦から弾き出されて、取り残されていた。

 wowakaさんはずっと、「自分はライブをするために音楽をやっている、だから来てほしい」というようなことを繰り返していて、

 ライブよりCDの方が好きな私は、それに対して反発があって、「ライブ好きじゃないのはヒトリエファンじゃない」と言われているような気分になった。だからああいう記事を書きました。

 今だってその感覚は消えていないし、ヒトリエに、wowakaさんに、「昔のような曲」を作ってほしいという思いも、やっぱり少しも変わっていません。

 

 ただ、wowakaさんが、ヒトリエが、進みたい方向に進んでいて、その1つの通過点かもしれないけど、着実に進化した姿を目にすることができて、そこには確かに強さがあった。

 その場に立って、音を聴いて、演奏を観て、言葉を受け取ることで、ヒトリエの表現したいもの、与えたい興奮を、共有することが、きっとできたし、

 その何もかもを心から肯定することはできないけれど、

 少なくとも、「今のヒトリエ」というものが嫌いではなくなった。

 それだけでも、ライブに行った価値があったと思います。

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 そして、やっぱり、今回のライブで何よりも嬉しかったのは、『プリズムキューブ』をやってくれたこと、しかもそれが、wowakaさんの希望だったということです。

 あの記事を書いたとき、wowakaさん・ヒトリエが変わってしまったことそのものに対する思いと、それに付随してもう1つ思っていたことがあって、

 「wowakaさんはボカロ時代のことを思い出したくないんじゃないか」。

 黒歴史、というと語弊がありますが、思い出したくない、消したい過去になっているのではないか。

 ワールズやローリンガールは、有名な曲で、ファンに望まれているから演奏しているだけで、ドキ生は呼ばれたから出ただけで、本当はボカロ時代の曲をバンドでもう一度やらされるのが苦痛なのではないか。

 

 しかも、私自身はボカロ時代のwowakaさんの大ファンだったので、あの頃のwowakaさんが全盛期で絶頂期というイメージを持っていますが、一方で、

 ワールズエンド・ダ ンスホールという曲について起こった様々な騒動を考えると、おそらく、あの頃のwowakaさんは精神的にかなり苦しかったのではないかと思います。あくまで想像ですけど。

 私自身も数年前にニコニコでプチ炎上したことがあるのですが、作品だけでなく人格のすべてを顔も名前も知らない様々な人に否定されるのは、相当キツいことだし、向こうが軽い気持ちで書き込んでいると頭ではどれだけわかっていても、その一言一言が重く響いてきます。まして、wowakaさんなんて、きっと毎日何十何百もの罵詈雑言を受け取っていたはずで。

 だから、wowakaさんが、ボカロ時代のスタイルからの脱却、転換を目指しているのは、ボカロ時代の自身の否定と繋がっていて、

 未だに「ボカロP出身の」というキャッチコピーで紹介されたり、「バンドの真似事」だと言われたり、そういうものから離れたくて仕方ないんじゃないかと、そういう思いがありました。

 

 ところが、この、全国ツアーのファイナル公演で、長いことやっていないボカロ曲をリバイバルさせた。

 しかも、人気も知名度もある『ワールズエンド・ダンスホール』『ローリンガール』『裏表ラバーズ』ではなく、よりによって、ボカロアルバムにしか収録されていない『プリズムキューブ』。

 言ってしまえば、ボカロ時代からのファンしか知らない曲。

 その、バンド初期に演奏していたものよりもボカロ音源に寄せたアレンジ。

 そんな曲をここで持ってきてくれたこと、それ自体が何よりも嬉しくて、

 wowakaさんがどんな思いでこれをツアーファイナルに持ってきたのかはわかりませんが、私はこれが、「ボカロPとしての過去の自分も捨てるつもりはない」という意思表示だと受け取りました。

 

 ヒトリエはどんどん変わっていってしまう、私の好きだったヒトリエがいなくなって、どこかに行ってしまう、そんな不安に囚われていたけれど、

 ただ変わっていく、離れていく一方なのではなくて、ちゃんと昔のものも拾い上げて、掬い上げてくれるのだと証明してくれた。そういう姿を見せてくれた。

 昔のwowakaさんに拘っている私みたいな鬱陶しいだけの懐古厨も、一緒にもっと素敵な場所に行こうと言ってくれた。そうだと信じたい。それなら私もヒトリエファンで居続けられると思う。

 

 これからのヒトリエの道のりにもきっとまた紆余曲折があって、その途中で、またヒトリエなんか違うって思ったり、一時的に嫌いになったり、不安になったりもすると思うけど、

 きっとまた、あの夜のような、どきどきするような刺激と、きらきらした興奮を味わわせてくれる。

 4月29日の新木場は、ヒトリエを追いかけること、一緒についていくことで、もっと素敵なものが見られるのだという確信を得られる、そんな場所でした。

くらいくらいせかいでさあ
ぼくはなんどくりかえす?
でもきらいになれないなぁ
どうしてなんだろう

──プリズムキューブ / wowaka

 改めて、あのライブを作り上げてくださった、バンドメンバーと、スタッフの皆さんに、感謝しています。ありがとうございました。