Our Story's Diary

こころを動かされたものと、動いたこころのこと

Bremen の感想と考察っぽいもの

 米津玄師さんの3rdアルバム「Bremen」の感想です。

 

 前にも「YANKEE」や「モノクロノ・エントランス」の感想を雑に書き殴っていたのですが、アクセスログとか見てたら、意外と検索エンジン経由で感想を求めてうちに来てる人が多いようなので、ちょっとは真面目に書こうと思っています。……たぶん。

 ちなみに私はROCKIN' ON JAPANのインタビュー読みましたので、それを前提にした感想になっているかもしれません。ネタバレとかいう話ではないと思いますが気になる方は買いましょう。

 ただ大まかな内容はナタリーさんの記事に上がっているので、そちらを読むだけでもいいと思います。

 米津玄師「Bremen」特集 (1/3) – 音楽ナタリー Power Push

 

 で、Bremenの内容について。

 1stアルバム「diorama」、2ndアルバム「YANKEE」、そしてこれ、と、並べた時に、

 米津さんの描く世界観が変化していっているというのは確かだと思います。

 そして、その大きな変化はどこにあるのか…というところなのですが。

 このアルバムのテーマは大きく2つに分かれていると思っていて、

 1つが「メッセージ性の強い、みんなを引っ張っていく曲」。
 これの代表が『アンビリーバーズ』で、シングル発売時のナタリーのインタビューでも、「代弁者」としての役割を意識しだした、という話が出ています。
 その結果、今まではあまりなかった「僕ら」という主語が多く出てきた。

 他には『ウィルオウィスプ』『Undercover』などもこちらかな、と。
 アルバムのモチーフである「ブレーメンの音楽隊」も、"音楽隊"という集団が前提になっていますし、孤独とか孤高のイメージはほとんどありません。
 『ゴーゴー幽霊船』が、「見えない僕を信じてくれ」という、ある種独りよがりなメッセージを持っていたのとは対照的です。

 一方で、『メトロノーム』『雨の街路に夜光蟲』などに出てくる「僕ら」という主語は、単語が同じでも意味が違って、
 もっと小さな単位、つまり「君と僕」という2人だけの世界が作られている。

 それがこのアルバムのもう1つの側面である、「愛」をテーマにした楽曲、と言えるのではないか、と。

 ラブソング…とまではいかないものもありますが、とにかく「愛すること・愛されること」に触れている曲が多い。

 「メトロノーム」「Blue Jasmine」はもちろんなのですが、「フローライト」「雨の街路に夜光蟲」「シンデレラグレイ」など、とにかく「僕 / 君」という言葉が多く出てきます。

 で、そういう曲が今までのアルバムになかったか?と言えばそんなことは決してなくて、

 例えば1stアルバム「diorama」では、『vivi』がそれにあたると思うのですが、

 『vivi』と『メトロノーム』の歌詞を比べた時に、『vivi』の方がより抽象的な歌詞になっている、という違いがあります。

 で、もう3年くらい前の話ですが、私は「diorama」発売時に、「酒処風船屋」というイベントに行ったことがあって、
 これはボカロPのレーベル『BALLOOM』のメンバーが集まってロフトプラスワンでお酒を飲みながら夜にトークをするという、ファンからしたらなかなかたまらないイベントで、
 メンバーも米津さん・wowakaさん・とくさん(GARNiDELiAのコンポーザー)・アゴアニキさん・すこっぷさん・古川本舗さんなど、特に2010年前後のボカロ界を代表する方々が集まっていたので個人的にはいつかまたやってほしいなと思っているのですがそれはおいておいて、

 ともかくその第4回、『diorama』発売記念に行われたイベントで、米津さんが

 「『マトリョシカ』や『パンダヒーロー』の歌詞が意味不明だと言われたので、そうではない曲も作れるんだ、という証明のために『vivi』の歌詞を書いた」

 という主旨の発言を行っていたように記憶しています。(その発言でwowakaさんが嫉妬してた)

 で、この発言はつまり、『vivi』の歌詞に対して当時の米津さん自身はあまり実感を持っていなかったのかな、と。

 歌詞を書くとき……私自身もそうだったりするのですが、あまり直接的なこととか、自分自身の実体験に基づいたことなんかをそのまま書こうとすると、それを曝け出すこと・発信することがどうしても恥ずかしかったり抵抗を覚えたりしてしまうもので、おそらくそれは若い時ほど強く感じることで、

 『vivi』の時点、さらに言えばボカロ時代の『WORLD'S END UNBRELLA』『恋人のランジェ』なども含めて、

 当時は書けなかった歌詞、また、当時は実感のなかったことを、時間の経過によって説得力を持って書ける/歌えるようになった、というのが、『diorama』から『YANKEE』を通して『Bremen』に着地した、米津さんの変化、ということなのではないかな、と思っています。

 ……いや、米津さんが実際どう変わったかとか、全然わからないですけどね。本人と話したこと、その風船屋で『diorama』のCDにサインしてもらった時の一瞬だけですし。(軽い自慢)

 ともかく、そういう目線で曲調の変化についても見てみると、

 不協和音が減り、シンプルなアレンジの中でメロディーラインが際立つ曲が多い印象です。

 これも本人がインタビューでさんざん語っていることですが、自分の好きなように作ってきた「diorama」から、大衆に受け入れられることを意識した『Bremen』、という違いがあって、
 万人が良さを感じるような曲が多いと思います。

 『Brremen』の曲たちよりも『diorama』や『YANKEE』が好き、という人はいても、『Bremen』が嫌い、という人はあんまりいないんじゃないかと。

 で、これで米津さんの良さが失われたか、と言えば、全くそんなことはなく。

 確かに『結ンデ開イテ羅刹ト骸』『マトリョシカ』や『ゴーゴー幽霊船』にあったような、「一発でそれとわかるオリジナリティ」はなくなっているかもしれませんが、
 特徴的なメロディーライン、密度の濃い歌詞と音作り、高い中毒性を生み出す語感の良い歌詞、といったものは相変わらずの「米津節」として残っています。

 ……とはいえ、4thアルバム以降で、『diorama』やボカロ時代の曲に一切回帰しない、ということであればやや口惜しさが残りますが、でもツイッターでは今回のスタイルをずっと貫くわけではないらしいことも仄めかしているので、期待したいところです。

 個人的には『Bremen』の方がずっと聴いていられる心地よさがあって『diorama』や『YANKEE』より好きかもしれないです。

 そもそも不協和音を多用する音楽って、先鋭化・多様化してとにかく新しいものが求められていた2009~2010年当時のボカロ・ニコニコだからこそ受け入れられていた部分があって、

 根本的に、「不協和音」というのはメジャーシーンで受け入れられるにはアクが強すぎるのではないでしょうか。

 実際、ハチさんとwowakaさんが完成させた「高速ボカロック」は『カゲプロ』『kemu VOXX』『脳漿炸裂ガールシリーズ』に引き継がれて今でも人気を保っていますが、
 不協和音を押し出した曲はほとんど後続が出ていない印象です(高いセンスが要求される部分もあるにせよ)。明確な後継といえるのはトーマさんあたりだと思いますが、同時期のじんさん・kemuさんなどと比べると相対的にマイナーです。

 そういう意味でも米津さんが、自分の良さ・オリジナリティを損なわない形でよりポップな路線に舵を切ったことはおそらく良い判断になるのではないかと思いますし、

 『YANKEE』を経由して生まれた『Bremen』は米津さんにとって、その一旦の着地点であると同時に新たな出発点になるはずなので、
 そういった「新しいけど心地良い」音楽をどんどん作り出してくれるのではないかという期待をより膨らませてくれる素晴らしいアルバムだと感じた、というのが私の感想です。

——————–

 最後に1曲ずつ軽く感想を。

1. アンビリーバーズ
 シングル曲。1曲目にふさわしいカッコいいエレクトロ風味。
 歌詞も曲も「皆を引っ張っていく」イメージが強い。サビのメロディーの気持ち良さは流石です。

2. フローライト
 うってかわって明るい曲。PVも相まって「夏のキラキラした風景」が思い浮かぶ。
 米津さんの曲ってサビの後に短いメロディーが続くことが多い気がします。『アンビリーバーズ』もそうだし、『Flowerwall』もそうだけど、単純に4小節や8小節で区切れない感じが中毒性と独自性を生み出してるのかなあと思ったり。

3. 再上映
 新曲。…いやこのアルバムだいたい新曲なんですが、1~4曲目の中で唯一PVが上がっていないので相対的に新しく感じる。YANKEEもそうでしたけど、もう少し既発表曲を全体に散らした方がいいと思うのは私だけでしょうか?
 曲名と歌詞が割とストレートにリンクしていて、伝えたいことがはっきりしているのがちょっと珍しく感じました。

4. Flowerwall
 ニコンのCMで有名な曲。壮大で美しい。
 「サンタマリア」に近いものの、より音の広がりを感じられる曲です。

5. あたしはゆうれい
 小気味のいいリズムと意味のない言葉の羅列で始まる楽しげな曲。メランコリーキッチンに雰囲気似てるかも。
 一人称が「あたし」なところから含めて歌詞は切なげ。

6. ウィルオウィスプ
 何となく暖かい気持ちになれるサウンド。
 歌詞は「ブレーメンの音楽隊」のモチーフが特に出ています。
 Will-O-Wispが「鬼火」なのを私はポケモンXYを英語版で進めたので知っている。

7. Undercover
 このアルバムの中では相対的に珍しい、クールな曲です。「ドーナツホール」や「パンダヒーロー」が好きな人が好きになるかもしれない。
 歌詞は暗いように思えて決してネガティブではないのがポイント。

8. Neon Sign
 ギターサウンドが前面に出たクールな曲。こちらも『Undercover』と立ち位置は近い。
 音・歌詞ともにサビの気持ち良さが随一で、さすが米津さんだと思わされます。

9. メトロノーム
 手描きPV。恋人同士の別れが描かれています。
 心に沁みる名曲。

10. 雨の街路に夜光蟲
 このアルバムで個人的にイチオシ。既に170回は聴いた。
 幼い男の子と女の子の世界が目に浮かびます。サビ直前の「2人でだったら行けるよね 地球の隅っこへ」という歌詞が本当に好きで、そこからドラムを挟んでのサビが最高。アルバムフェードの時点でかなり期待していて、その期待通りの完璧な曲だったのでもう文句なしです。
 ボカロ時代の『WORLD'S END UMBRELLA』や『clock lock works』を思い出させる可愛いファンタジックな音使いが印象的。

11. シンデレラグレイ
 この曲も大好きです。
 ちょっと詳しく語りたいのですが、Aメロの各フレーズ、最初の2音が「低いソ→高いソ」へオクターブで移動していて、しかもその2音目は(2番で一部例外がありますが)基本的に「ねえどうして」「そたびたびに」「かちゃの馬車」という、母音がoで終わる音になっていて、高い音を自然に出しやすい喉の形に持っていってくれるので、歌っても聴いても気持ちよいのです。
 そして米津さんの王道パターンでもあるサビの2段構えが、1番ではないのに2番ではある、という変化球。これも良い。
 さらに言えば最後のサビ、基本的には繰り返しなのですが終わりの音(くれたの"")だけ半音下がっている、というのも予想を裏切ってきて、それでいて不自然ではない。
 メロディーに合わせてコードも変わっているので厳密には不協和音ではないかもしれませんが、このあたりのバランス感覚は米津さんならではだと思います。

12. ミラージュソング
 ツイキャスで弾いてたらしい曲。あまりツイキャス観れてないので初めて聴きました。
 とにかく優しくて暖かい曲です。ドラマのEDとかになりそう。

13. ホープランド
 こちらも暖かい、終わりにふさわしいような曲。前後の曲と比べるとより荘厳な雰囲気があります。
 『Bremen』は全体を通して、似たような曲調の曲が近い場所に配置されているので、統一感がある一方、『YANKEE』のようなカオスが好きな人はあまり好きではないのかもしれないなあと思ったり。
 でもこのあたりの統一感ってBUMPのアルバムとかに近いのでやっぱりその影響は強いのではないでしょうか。

14. Blue Jasmine
 『ホープランド』が理想的な終わり方だとして、こちらはもっと現実的な終わり方。
 「これから僕たちはどこへ行こう」という、ある意味でこのアルバムのコンセプトをひっくり返す歌詞ではありますが、その意味でも『Bremen』はやっぱり通過点なのだろうと改めて感じます。
 個人的にはこのアルバムのバラード系(といっていいのかな?)の中で一番好きです。別の人のアルバムを出すのもアレですが『プリズムキューブ(アンハッピーリフレイン)』に近い雰囲気で、こういう切ない中でも希望に満ちたエンディングは大好きです。

 

 『Bremen』は全体的に文句ないのですが、1つ要望があるとすれば、このアルバムのテーマ的に15曲目にボーナストラックとして『ワンダーランドと羊の歌(COVER)』があったら最高だったのでは、と思ったりします。でも『Blue Jasmine』も最高のエンディングなのでやっぱりこれでいいような気がします。

 とにかく、今までの米津さんのアルバムよりもいい意味で尖っていないので、全ての人にオススメしたい1枚です。最高です。本当に進化し続ける人だ…。

 

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